恋人とランチの約束とその待ち合わせの話
「なあ少年。ランチの約束をしないかい?」
「はあ、またなんですか突然に」
デスクを地盤に書類で作られたビル群のわずかな隙間から、スティーブンが顔を覗かせている。ソファに座っていたレオナルドは、またこの人面倒そうなこと考えてるな、そう顔には出ているが一応返事をした。
現在オフィスには大量の書類に埋もれているスティーブンと、ソファでソニックをかまって遊んでいたレオナルドしかおらず、他のメンバーはみな外出中だ。
「ほら、僕がランチに出れるときは、ここから一緒に行くだろう?それじゃあ余りにも味気ないとは思わないかい?ここはひとつ、恋人らしく外で待ち合わせをしよう」
「えー……この人何考えてるか、わっかんない」
「声に出てるぞー少年」
書類製のビルの隙間から、棒読みな声が漏れ聞こえてくる。
「まあ、いいですけど。どうせ僕にはYesしか選択肢はないんですよね」
ため息まじりに了承の返事をしながら、レオナルドは頭までよじ登ってきたソニックの首根っこをつかんで膝の上に下ろしてやる。
「そうと決まればいつにしようか!」
気分がいいのが丸わかりな声色だ。
「え、今日じゃないんですか?」
「当たり前だろう?見ろよこの書類の山。うんざりするだろう?だから僕は楽しみが欲しい。うんと最高なやつだ。そういうわけで、レオきみが決めてくれ」
スティーブンは鼻歌でもはじめそうな調子だが、一方のレオナルドはやや呆れ気味である。それでも邪険にできないのは、やはり惚れた弱みとしかいいようがない。
「もう、わかりましたよ。わかりました。それじゃあ……その書類製のビルが片付く頃がいいですね。よし、3日後にしましょう」
「ずいぶんと待たせるなぁ、」
「ちょうどいいくらいです」
それから3日間、実のところレオナルドは自分で指定した約束のランチまで、指折り数えて楽しみにしていた。
なにせ恋人同士といっても普段はライブラのオフィスで、まれに任務に同行するくらいしか接触がない。スティーブンの仕事は多忙を極め、レオナルドと2人きりでどこかへ出かけるというのは滅多にないのだ。
スティーブンもなんだかんだと可愛い恋人とのランチが楽しみで仕方なく、機嫌がよすぎてオフィスにやってくるメンバーを順番に気味悪がらせていた。
K・Kに至っては不審者を見るそれである。
ただひとり、クラウスだけがそんな彼の様子を微笑ましく思っていた。
その理由は簡単で、レオナルド本人から直接ふたりの約束を聞いているのだ。やけに楽しそうにソニックと戯れていたところを見つけられ、理由を尋ねられたレオナルドはあっさり恋人との約束を教えてしまった。それは相手が他ならぬクラウスだからなのだが、誰かに言ってしまうほどにレオナルドも浮かれていたのだ。
まさしく相思相愛。お似合いのカップルである。
そうしてやってきた約束の日。
最初に決めておいた待ち合わせ場所まで、レオナルドは徒歩で向かっていた。今日は朝からアルバイトがあり、そこから直接向かっているのでライブラの事務所には寄っていない。よって今日はまだ恋人の姿は見ていない。
「時間大丈夫かな、ええっと…………あっ!い、た……うわあ近寄りたくない」
待ち焦がれていた恋人の姿をみつけ、嬉しいはずのレオナルドだがその声はしりすぼみ地を這うようだった。
レオナルドの視線の先、待ち合わせ場所である時計台の真下には確かにスティーブンがいた。いたのだが、その腕には誰が見ても派手でとびっきり豪華な花束が抱えられているのだ。絶対に近寄りたくない。レオナルドは本能で危険を察知する。
周りに視線を流せば、女性たちが花束を抱えた彼にチラチラと憧れと興味の視線を何度も送っているし、面白いものをみるような視線を向けている者もいるようだった。
まあわかる。レオナルドは自分の恋人でなければ完全に鼻で笑って通り過ぎているところだ。それほどに目立っている。絶望的なほどに目立っている。
確かに、男性側がデートの度に素晴らしい花束や贈り物をこさえてやってくる国や地域はあるが、ここはHLだ。異界と現世が混じったこの場所は、それでも何故だか彼を極めて目立たせていた。
もしかすると彼が、一般的な成人男性の平均よりも(かなり)整った容姿をしていることが原因の一つかもしれないし、抱えている花束がやけに目立つ色合いだったから、なのかもしれない。
レオナルドはこのまま何も見なかったことにして通り過ぎることも勿論できず、おずおずといった足取りで徐々に距離を詰めていく。颯爽と彼の前に出れるほど肝は座っていない。許してほしい。
そして現実は悲劇的である。
「やあレオナルド!」
「ウッ……!こ、こんにちはスティーブンさんっお早いおつきですね……」
「いや?今来たところだよレオナルド。さあデートのはじまりだ!」
なんか今また使い古されたセリフを吐いたなこの人。自然すぎて聞き流すところだった。レオナルドは心の中で一番深い引出しに今の出来事をしまい込んだ。一生開けない場所の1つになるだろう。
「えっ?!ランチを一緒にするだけですよね?」
いいながら一歩後ろず去ったのは仕方がない。
「いや?そんなこと、僕言ったかな?さ、デートだ。まずはこれを受けとって」
そうレオナルドの目の前に差し出されたのは、先ほどから周囲の視線をひとりじめにしていた派手でとびっきり豪華な花束に他ならず、その花束の先には甘くとろける砂糖菓子のような瞳をしたスティーブンの顔があって、レオナルドは自分の顔が真っ赤になったのを頬の熱さで理解する。
「あんた、ほんっとに恥ずかしい!」
両腕いっぱいに花束を受け取り、そのまま勢いで思い切り背伸びをしてスティーブンのこめかみにキスを送った。彼もまた、まんざらでもないのだ。
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